地震のとき、自宅の塀が避難路を塞がないか|さいたま市
📅 本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。助成制度の内容は年度ごとに変わります。法的な責任の考え方については一般的な整理であり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。
「地震が起きたら、この公園に集まろう」——ご家族でそう決めているお宅は多いと思います。では、そこまでの道を、実際に歩いてみたことはありますか。決めているのは行き先だけで、道のりのほうは頭の中の地図のまま、というご家庭が案外多いのではないでしょうか。
そして、逃げ道の話をすると、たいてい話は「他人の家」の心配になります。あの角のブロック塀は古い、あの家のカーポートは大丈夫か、と。でも、誰かにとっては、うちが「あの家」かもしれません。
この記事は、逃げる側ではなく塞ぐ側の話です。屋根と外構を扱う工務店の立場から、自宅の塀や屋根が誰かの逃げ道を塞がないか、という視点で整理します。
防災の話になると、まず出てくるのが避難場所です。市の指定を確認して、家族で「うちはここ」と決める。ここまではできているお宅が多いと思います。
その先が、抜けがちです。
- そこまで、どの道を通りますか
- その道が通れなかったとき、どこを回りますか
- 夜だったら、雨だったら、同じ道を選びますか
- お子さんやご年配の方の足で、何分かかりますか
行き先だけ決まっていて、道のりは決まっていない。これはご家庭を責める話ではなく、避難場所の情報は自治体が出してくれるのに対して、道のほうは自分で歩いてみないと分からないからです。
屋根屋は、お客様の家の周りを歩いています
私どもは点検やお見積りのたびに、お客様のお住まいの周りを歩きます。屋根に上がる前に、まず建物の周囲を一周して、外壁や雨樋、それから足場を組めるかどうかを見るためです。
その仕事柄、住宅街の細い道の様子が目に入ります。そして毎回のように思うのが、この道は、塀が一枚倒れただけで通れなくなるということです。幅4メートルの道に、高さ1.8メートルの塀が横倒しになれば、道の半分は埋まります。そこに植木や瓦が重なれば、大人でも越えにくくなります。
避難経路というと、距離や道幅の話だと思われがちです。実際には、沿道に何が建っているかのほうが、通れるかどうかを決めています。
地震で道が通れなくなる原因を思い浮かべると、多くの方が「地割れ」や「陥没」を想像されます。もちろんそれも起きますが、住宅地でまず起きるのは、もっと身近なことです。
並べてみると、ほとんどが誰かの敷地から道路へ倒れてくるものだと分かります。道そのものが壊れるより先に、道の両側に建っているものが道へ出てきて、通れなくなる。これが住宅地の避難経路で最初に起きることです。
「家の中」の対策と、対になる話です
以前、地震のとき、家の中で倒れてくるものを見直しましょうという記事を書きました。タンスや本棚、テレビ、食器棚。家の中で倒れてくるものを一つずつ点検していく内容です。
この記事は、その外側の版だと思ってお読みください。家の中で倒れてくるものを見直したら、次は家の外です。違うのは、外にあるものが倒れたときに巻き込まれるのが、ご家族とは限らないという点です。
家の中の家具が倒れて困るのはご家族です。家の外の塀が倒れて困るのは、そこを通りかかった誰かです。同じ「倒れてくるもの」でも、責任の向く先が変わります。
脅かすつもりはありませんので、事実だけを書きます。
1978年 宮城県沖地震
1978年6月12日に発生した宮城県沖地震について、仙台市は公式サイトで当時の被害を記録しています。現在の仙台市域における死者は16人。そのうち11人が、ブロック塀の倒壊によって犠牲になったと記載されています。
この地震をきっかけに、ブロック塀の危険性が広く知られるようになり、建築基準法施行令の規定も見直されていきました。裏を返せば、それ以前に造られた塀は、いまの基準を前提にしていないということでもあります。
2018年 大阪府北部地震
内閣府の防災白書によれば、2018年(平成30年)6月18日7時58分に大阪府北部でマグニチュード6.1の地震が発生し、大阪市北区・高槻市・枚方市・茨木市・箕面市で震度6弱を観測しました。この地震による死者は6名、そのうち2名がブロック塀の崩落に巻き込まれて亡くなっています。
高槻市の小学校で倒壊した塀については、市が設置した調査委員会が報告書をまとめています。その報告書によれば、この塀は昭和49年にプールと同時に設置された補強コンクリートブロック造で、寸法は次のとおりでした。
それでも、外から見ただけでは分からなかった
ここが、この記事でぜひお伝えしたいところです。
同じ調査委員会は、事故の主原因を、内部構造に不良箇所があったことによるブロック塀脚部の耐力不足と結論づけています。擁壁への鉄筋の定着長さが足りていなかったこと、使ってはいけない位置での継手が用いられていたこと、鉄筋に著しい腐食が見られたこと。そして報告書は、これらの不良箇所はブロック塀内部の構造に関するものであり、外観目視などの通常の点検手法では確認することができないとしています。
高さや控壁の有無は、外から見れば分かります。けれども、塀が倒れるかどうかを最終的に決めていたのは、外から見えない中身のほうでした。この事実は、次の章のチェックポイントを読むときの前提になります。
国土交通省が、ブロック塀の点検のチェックポイントを公表しています。日本建築防災協会のパンフレットをもとにしたもので、ひとつでも不適合があれば危険なので改善しましょう、という趣旨のものです。
まず、鉄筋の入った補強コンクリートブロック塀の場合です。
- 1. 塀は高すぎないか……塀の高さは地盤から2.2m以下か
- 2. 塀の厚さは十分か……塀の厚さは10cm以上か(塀の高さが2m超2.2m以下の場合は15cm以上)
- 3. 控え壁はあるか(塀の高さが1.2m超の場合)……塀の長さ3.4m以下ごとに、塀の高さの1/5以上突出した控え壁があるか
- 4. 基礎があるか……コンクリートの基礎があるか
- 5. 塀は健全か……塀に傾き、ひび割れはないか
- 6. 塀に鉄筋は入っているか……直径9mm以上の鉄筋が縦横とも80cm間隔以下で配筋されているか。基礎の根入れ深さは30cm以上か(塀の高さが1.2m超の場合)
石積みやレンガ積み、鉄筋の入っていないブロック造は組積造の塀と呼ばれ、基準が別になります。並べると違いがはっきりします。
| 項目 | 補強コンクリートブロック塀 (鉄筋入り) |
組積造の塀 (石積・レンガ積・鉄筋なし) |
|---|---|---|
| 高さ | 地盤から2.2m以下 | 地盤から1.2m以下 |
| 厚さ | 10cm以上(高さ2m超2.2m以下は15cm以上) | 厚さは十分か |
| 控え壁 | 長さ3.4m以下ごとに、高さの1/5以上突出(高さ1.2m超の場合) | 長さ4m以下ごとに、厚さの1.5倍以上突出 |
| 基礎 | コンクリートの基礎があるか | コンクリートの基礎があるか |
| 傾き・ひび割れ | 傾き、ひび割れはないか | 傾き、ひび割れはないか |
| 根入れ深さ | 30cm以上(高さ1.2m超の場合) | 20cm以上 |
1から5までは、ご自身で見られます
高さ、厚さ、控え壁、基礎、傾きとひび割れ。ここまでは、メジャーを持って外から見れば確認できます。塀に沿って歩いて、控え壁が何メートルおきに出ているかを数えるだけでも、だいぶ分かります。
ですから、この6項目は「合格・不合格を自分で判定するためのもの」ではなく、専門家に相談するかどうかを決めるためのものだとお考えください。1から5のどれかが引っかかったら、あるいは分からない項目があったら、そこが相談のタイミングです。
ブロック塀が注目されがちですが、道に出てくるものは他にもあります。地震で落ちるもの、台風で飛ぶもの、両方の目で見ておきたいところです。
地震で落ちる・倒れるもの
- 門柱・門扉……塀と一体で造られていることが多く、塀が倒れれば一緒に倒れます
- 大谷石やコンクリートブロックの擁壁……古い分譲地では、道路との段差を石積みで処理している区画があります
- 棟瓦・のし瓦……瓦屋根の頂部です。漆喰が痩せていると、揺れで崩れて落ちます
- テレビアンテナ……支線が錆びていると、根元から倒れます
- 物置……アンカーで固定していない物置は、揺れで動きます
- ブロック積みの花壇……低くても、崩れれば道に散らばります
台風で飛ぶもの
- カーポート・テラス屋根のポリカーボネート板……留め具が劣化していると、一枚ずつ抜けて飛びます
- 棟板金……スレート屋根の頂部を覆う金属です。釘が浮いていると、風であおられて剥がれます
- 雨樋……金具が外れかけていると、垂れ下がって道路側に落ちます
- 袖看板・表札まわりの装飾……取付部の錆に気づきにくい箇所です
- 道路にはみ出した植木・生垣……枝が折れて落ちるほか、平時から歩行の幅を狭めています
このうち屋根まわり——棟瓦、棟板金、雨樋、アンテナ——は当社の本業ですので、点検でそのまま見られます。台風前の点検については台風前にやっておくべき住宅メンテナンスに、過ぎたあとの確認については【台風が過ぎたら】被害確認の手順と火災保険の使い方にまとめてありますので、あわせてご覧ください。
ここは、書くかどうか迷った章です。脅かすために書くのではありません。「点検しておく価値がある」ということを、きちんとお伝えするために必要だと考えました。
民法717条に、土地の工作物についての責任を定めた規定があります。塀や擁壁、建物などの工作物の設置や保存に瑕疵があって他人に損害が生じたときは、まずその工作物を占有している人が責任を負います。そして、占有者が損害の発生を防ぐのに必要な注意をしていたときには、所有者が責任を負うという組み立てになっています。
「地震だったから」で終わるとは限りません
地震は不可抗力です。ですから「地震で倒れたのだから仕方がない」と考えたくなります。実際、純粋に地震の力だけで倒れたのであれば、そう判断されることもあります。
ただし、工作物そのものに瑕疵があって、それが地震と重なって被害につながった場合には、責任を問われる可能性があります。過去の裁判でも、自然の力の寄与を考慮して賠償額を減らしつつ、所有者の責任そのものは認めた例があると紹介されています。
ここで正直に申し上げておきます。当社は法律の専門家ではありません。実際にどう判断されるかは、塀の状態、被害の内容、地震の規模といった個別の事情によって分かれますし、最終的には裁判所の判断になります。「必ず賠償責任を負います」と申し上げることはできませんし、「地震なら大丈夫です」と申し上げることもできません。
お伝えしたいのは、その一歩手前のことです。塞ぐ側になったときに、「点検はしていた」と言えるかどうか。これは法律の話である前に、住まいを持つことに付いてくる責任の話だと思います。そして点検は、専門家に頼めば済むことです。
点検の結果、直したほうがよいとなったとき。さいたま市には、既存のブロック塀等を撤去したり建て替えたりする工事に対する助成制度があります。
着手前に申請し、交付決定を受ける必要があります。工事を始めてしまってからでは対象になりません。
窓口は区によって分かれています。西区・北区・大宮区・見沼区・岩槻区は北部建築指導課(048-646-3235)、中央区・桜区・浦和区・南区・緑区は南部建築指導課(048-840-6236)です。
ここに書いたのは、年度・助成額・事前申請という3点だけです。要件はこれで全部ではありません。また、助成制度は年度ごとに内容が変わります。実際に使われる際は、必ずさいたま市のホームページで最新の内容をご確認いただくか、上記の窓口へ直接お問い合わせください。
工事について
住医やたべは屋根・外壁を本業としていますが、外構まわりの工事もお受けしています。ブロック塀の撤去、フェンスや門扉の取り付け、物置の設置といった内容です。大がかりな外構デザインを手がける専門店ではありませんが、「危ない塀をどうにかしたい」というご相談には、そのまま対応いたします。
ただし、助成金の申請は着手前である必要がありますので、進め方の順番だけご注意ください。まず点検と見積り、次に市への事前相談・申請、交付決定を受けてから着工、という流れになります。この段取りも含めてご説明しますので、お気軽にお声がけください。
ここまで地震の話を続けてきましたが、道が通れなくなるのは地震だけではありません。大雨のときは、低いところから順に通れなくなります。
ひとつお断りしておきます。この記事では、特定の道路名や地区名を挙げて「ここは冠水します」とは書きません。実際に降る雨によって状況は変わりますし、お住まいの地域について外部から断定的に書くべきではないと考えるためです。代わりに、気をつけたい場所の類型を挙げます。ご自身の目で、通勤・通学路に当てはまる場所がないか確かめてみてください。
- アンダーパス……線路や道路の下をくぐる道。周囲より確実に低く、水が集まります
- 周囲より一段低い交差点……坂と坂の間にある交差点は、両側から水が流れ込みます
- 掘り込み車庫や半地下のある区画……その区画自体が周囲より低くなっています
- 用水路・水路跡の暗渠沿いの道……もともと水の通り道だったところです
- 坂の下の行き止まり……水は集まりますが、抜ける先がありません
ハザードマップは2種類あります
さいたま市は、洪水ハザードマップと内水ハザードマップの両方を公開しています。この2つは別のものです。
- 洪水ハザードマップ……河川が氾濫した場合の浸水想定を示したもの
- 内水ハザードマップ……下水道などの排水能力を超える雨が降った場合の浸水想定を示したもの
川から離れているから安心、とはなりません。川が溢れなくても、降った雨が流れきらなければ水は溜まります。両方を見て、はじめて自宅周辺の絵が揃います。市のホームページで、どちらも確認できます。
なお、水が引いたあとの設備の扱いについては、台風・浸水のあと電源を入れてはいけない設備にまとめています。逃げたあとに戻ってきてからの話ですが、こちらも事故が起きやすい場面です。
最後に、お願いというほどでもない提案です。
避難場所までの道を、一度ご家族で歩いてみてください。それだけで、地図を見ているだけでは分からないことが、いくつも見つかります。
- 平日の朝……通学時間帯にどれくらい人が通るか
- 夜……街灯がどこで途切れるか
- 雨の日……水がどこに溜まるか、傘をさしてすれ違えるか
時間帯を変えると、同じ道が違って見えます。そして歩きながら、沿道に何が建っているかを見てみてください。塀、カーポート、看板、植木。そのなかにご自宅も含まれているということが、この記事でお伝えしたかったことです。
お子さんと一緒に歩くのであれば、お子さんの足で何分かかるかを測っておくとよいと思います。大人の感覚で「10分くらい」と思っている道が、実際には倍かかることもあります。
ついでで構いません
当社が点検にお伺いする際は、屋根や外壁だけでなく、塀や門柱、カーポート、道路にかかっている植木の様子もあわせて見ることができます。屋根に上がる前に建物の周りを一周しますので、その流れで確認するかたちです。
その場で工事の話にはなりません。「この塀は高さも控え壁も基準どおりですね」で終わることもありますし、「これは一度きちんと調べたほうがいいですね」となることもあります。どちらであっても、そのままお伝えします。
ご自宅が誰かの逃げ道を塞がないか。気にかけるところから始めていただければ、この記事の役目は果たせたことになります。